樋口一葉の世界にようこそ  ここには樋口一葉の文学を知る上で貴重な作品が多数収録されています。 是非ご覧になり貴重な一様文学の神髄をお楽しみ下さい。
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収録作品
【1892年】
うもれ木
たま襷
闇櫻
五月雨
別れ霜
經つくえ
【1893年】
暁月夜
琴の音
雪の日
【1894年】
暗夜
花ごもり
大つごもり
【1895年】
うつせみ
たけくらべ
にごりえ
ゆく雲
雨の夜
月の夜
軒もる月
十三夜
【1896年】
あきあはせ
うらむらさき
この子
すゞろごと
わかれ道
われから
反古しらべ
さをのしづく




 

総ページ数 2

 經つくゑ              
 樋口一葉
 
 (一)
 
  あは手向てむけ花一はな千年ねんのちぎり萬年まんねんじやうをつくして、れにみさをはひとりずみ、あたら美形びけい月花つきはなにそむけて、何時いつぞともらずかほに、るや珠數じゆずかれては御佛みほとけ輪廻りんゑにまよひぬべし、ありしは何時いつ七夕せき、なにとちかひひて比翼ひよくとり片羽かたはをうらみ、無常むじようかぜ連理れんりゑだいきどほりつ、此處こゝ閑窓かんさうのうち机上きじやう香爐かうろえぬけふりのぬしはとへば、こたへはぼろり襦袢じゆばんそでつゆきて、はぬ素性すぜうきたきは無理むりか、かくすにあらはるゝがつねぞかし。
  さすればゆめのあともなけれど、さとらぬさきれもれもおもひをせしは其人そのひとか、醫科いくわ大學だいがく評判ひようばんをとこまつしま忠雄たゞをばれて其頃二十七そのころか八か、けば束髪そくはつ薔薇ばらはなやがてみをつくり、首巻くびまきのはんけちにわかにかげして、途上とじよう黙禮もくれいとも千歳ざい名譽めいよとうれしがられ、むすめもつおや幾人いくにん仇敵あだがたきおもひをさせてむこがねにとれも道理だうりなり、故郷くに静岡しづをか流石さすが士族しぞくだけ人品じんぴん高尚かうしようにて男振申をとこぶりぶんなく、さいありがくあり天晴あつぱれの人物じんぶついまこそ内科ないくわ助手しよしゆといへども、行末ゆくすゑのぞは十指のさすところなるを、これほどのひと他人たにんられてるまじとの意氣いきごみにて、むこさま拂底ふつていなかなればにや華族くわぞく姫君ひめぎみ高等かうとうかん令嬢れいぢようおほ商人あきんど持参金ぢさんきんつきなどれよれよと申込みのくち/\”々より、小町こまちいろらふ島田しまだまげ寫眞鏡しやしんきやう式部しきぶさいにほこる英文和譯ゑいぶんわやく、つんで机上きじようにうづたかけれどもこのをとこなんののぞりてからずか、仲人なかうどもゝさへづりきゝながしにしてれなりけりとは不審いぶかしからずや、うたがひはかる柳闇りうあん花明くわめいさとゆふベ、うかるゝきのりやとれど品行ひんかう方正はうせい受合うけあいをうければことはいよいよ闇黒くらやみになりぬ、さりながらあやしきは退院たいゝんがけに何時いつ立寄たちよれのいゑあめはふれどゆきれど其處そこ轅棒かぢぼうおろさぬことなしとくちさがなき車夫しやふれに申せしやら、それからそれつたはりて想像さうざうのかたまりはかげとなりかたちとなりさま/\”々のうわさとなり、ひとれずをもみたま御方おんかたもありし、其中そのなかけて苦勞性くろうせうのあるおひとしのびやかにあとをやつけたまひし、ぐりにぐればさて燈臺とうだいのもとらさよ、本郷ほんごう森川町もりかはちようとかや神社じんじやのうしろ新坂通しんさかとほりに幾構いくかまへの生垣いけがきゆひまわせしなかせばらく片折戸かたをりど香月かうづきそのと女名をんなゝまへの表札ひようさつかけてをり/\々もるゝことのしのび軒端のきばうめうぐひすはづかしき美音びおんをばはる月夜つきよのおぼろげにくばかり、ちらり姿すがたなつすだれごしくやれゆゑしみてか藥師やくしさまのゑんにちにそゞろあるきをするでもなく、ひとまちかほ立姿たちすがたかどにおがみしこともなけれど美人びじんこの近傍かいわいにかくれなしとくは、さてこそいよ/\々學士がくし外妾かこいか、よしや令嬢れいぢようぶればとておさとはいづれれたもの、其様そんなものに鼻毛はなげよまれてはてあとあしのすな御用心ごようじんさりとてはお笑止しようしやなどゝくまれぐちいひちらせどしんところねたねたしのつもり、かゝるひと/\”々の瞋恚しんいのほむらが火柱ひばしらなどゝ立昇たちのぼつてつみもない世上せじやうをおどろかすなるべし。
 
  (二)
 
  くろぬりべいおもてかまへとお勝手かつてむきの經済けいざいべつものぞかし、をしはかりにひとうへうらやまぬものよ、香月かうづき左門さもんといひし舊幕臣きうばくしん學士がくし父親ちゝおやとはかみしも■▲のかたをならべしあいだなるが、維新いしんへんれは静岡しづおかのおとも、これは東臺とうだい月雨みだれにながす血汐ちしほあかこゝろ首尾しゆびよくあらはしてつゆとやえし、みづさかづきしてわかれしりのつま形見かたみこのじんなり、ひと不幸ふこううまれながらに後家ごけさまのおやちて、すがる乳房ちぶさあまへながらもちゝといふ味夢あぢゆめにもしらず、ものごゝろるにつけておやといへば二人ふたりある他人ひとのさまのうらやましさに、いとしきこととひかけては幾度いくたびはゝそでしぼらせしが、そのはゝにも又十四といふとし果敢はかなくわかれていまは身一つのいたはしさ、かの學士がくしどのその病床びやうしよう不圖ふとまねかれて盡力じんりよくしたるが原因もととなり、くりかへむかしのゆかりもてがたく、ひきつゞいて行通ゆきかひしけるが、るにもくにも可愛想かあいさうなりのどくなり、これがしもおきやむすめびかへりなどならはらぬことといはゞかどほかをもず、はゝさまとならではおにもかじ、觀音かんのんさまのおまいりもいやよ、芝居しばゐ花見はなみはゝま御一しよならではと此一このトもとのかげにくれて、姿なりこそ嶋田しまだ大人をとなづくらせたれどしようところ人形にんぎやうだいてあそびたきほどの嬰児ねゝさまがにはかにおちしたさるどうやう、なみだのほかになんかんがへもなくおたみ老婢はしためそでにすがつて、わたしも一處しよかんれよとてきわけもなくりし姿すがたのあくまであどけなきが不愍ふびんにて、もとよりれたのまねば義務ぎむといふすぢもなく、おんをきせての野心やしんもなけれどれより以來いらい百事ひやくじばんたんひきうけてをすることしん兄弟けうだい出來できわざなり、これを色眼鏡いろめがねひとにはほろ酔のひざまくらにみゝあかでもらせるところゆるやら、さりとは學士がくしさまゑんざいうつたへどころもなし。
  いま女子ぢよし教育きよういく賛成さんせいといひがたきこゝろよりおそのにためも學校がくかうがよひせたくなく、まわみちでもなき歸宅かへりがけの一時間きかん此家こゝりては讀書どくしよ算術さんじゆつおもふやうにをしへてれば記憶きおくもよくわかりもはやく、學士がくしはいよ/\可愛かわいがりしが、おそのすこしのかんじもなく、ありがたしうれしなどくちさきすどころかかほるさへやがりて、にち/\々のけいにも書物しよもつことよりほかふことのきは勿論もちろん返事へんじをさへうちとけてひしことはなく、しひへばしさうな景色けしきるおたみきのどくさかぎりなく、何歳いつまでも嬰児ねねさまでいたしかたが御座ござりませぬ、流石さすがのおけるお他人たにんにはすこ大人をとならしくおあそばせど、お心安こゝろやすだてのわがまゝか、あま氣味ぎみであのとほりの遠慮ゑんりよなさ、ちと御呵おしかあそばしてくださりませときま文句もんくはなたすれど學士がくしさらにもめず、その幼なきがたつときなり、反對はんたいはねかへられなばおたみどのにも療治りようぢが六ツかしからん、そのさまれに遠慮ゑんりよらず、やなときやといふがよし、れを他人たにんをとこおもはず母様はゝさまどうやうあまたまへとやさしくなぐさめて日毎ひごとかよへば、なほさら五月蝿うるさいとはしくくるまのおとのかどとまるをなによりもにして、それおいできくがいなや、勝手かつてもとのはうき手拭てぬぐひをかぶらせぬ。(■は「ころも」かみに「上」、▲は「ころも」しもに「下」)
 
  (三)
 
  おたみ此家このや十年ねんあまり奉公ほうこうして主人しゆじんといへどいまかはらず、なにとぞ此人このひと立派りつぱあげてれもけんほこりたきねがひより、・・・・やきもきとむほど何心なにごゝろなきおそのていのもどかしく、どうしたものかんがへ、こまつたものとなげき、はては意見いけん小言こゞとぜてさまざまかせぬ。
  何時いつかははふとぞんじたれど、おまへさまといふ御人おひとにはあきれまする、れが五つや十のどもではなし、十六といへばお子様こさまもつひともありますぞや、まあかんがへて御覧ごらんなされお母様はゝさまがお病没なくなりからこのかた、あしかけ三年ねんながあいだ松島まつしまさまがれほどつくしてくだされたとおぼしめす、わたしでさへなみだがこぼれるほどうれしきにおまへさまはいしか、さりとは不人情ふにんじようと申ものなり、おおぼえがあるはづなれど一々申さねばおわかりになるまじ、お身寄みよ便たよりのなきおまへさまのあんして、ひとおしへが肝腎かんじんのものなるにはゞそのさまなどはいま白糸はくしなんいろにもまりやすければ、學校がくかうかよひにからぬともでも出來できてはならず、一切さいれにかせてまあてくれと親切しんせつおつしやつてお師匠しゝようさまから毎日まいにちのお出稽古でけいこ月謝げつしやしてとゞけして御馳走ごちそうしてくるまして、あがめたてまつ先生せんせいでもゆきあめには勿論もちろんこと、三度に一度はおことわりがつねのものなり、それをなんぞやだゞ々つさま機嫌きげんとり/\“、此本一このほんさつよみおはらば御褒美ごほうびにはなにまいらせん、ならひが出來できたれば此次このつぎにはふみきてたまへと勿体もつたいない奉書ほうしよ半切はんきれを手遊おもちやくだされた事忘ことわすれはなさるまい、う申さばおまへさまのおこゝろにはんなものたゝきつけてかへしたしとおぼしめすからねど、紙一かみまいにも眞實まことのこもるおこゝろざししをいたゞものぞかし、其御恩そのごおんなんともおもはず、一年ねんといふ三百六十五日打通うちとほして、かほどころか普通あたりまへあつさむいも満足まんぞくにはおつしやらず、必竟ひつきようあのかたなればこそおはらもたてずにもかけけず可愛かあがつてくださるものゝ、第一だい天道てんたうさまのばちあたらずにはりませぬ、咋日きのふ此近傍このあたりうはさけば松島まつしまさまは世間せけん評判ひようばんかたおくさまたうならどりにやまほどなれどなたもおことはりで此方こなたへのおいで嬢様ぢようさまうへにばかりりがちがうか、なんといふお幸福しやわせやきもちやいてうらやみますぞや、そのおひとてられたらおまへさままあなんあそばす、おなききなさるはおはらがたつか、おおこりになつてもよし、たみは申だけは申ます、るくおあそばせばれまで、さりとは方圖はうづのなきおわがまゝとおもつて、しかりつけしがれもしゆおもの一部なり、もとよりおそののあるではなくたゞおさなひとぎらひして、抱かれるをやがり、あやされゝばくとおなじく、何故なぜ其人そのひとはずりとて格別かくべつあだをしてこまらせんなどゝねんりしくさでもなく、まこと世間せけんずのわがまゝからおこりし處爲しよいなれば、はれるにつけてなん言譯いひわけ理由りゆうもなく、口惜くやしきかかなしきかはづかしきか無茶むちや苦茶くちやいてかほもあげぬを、おたみなほも何事なにごとかいはんとするをりかどにとまるれいくるまおと、それおいでなり今日けふこそはやさしくあそばせよ。
 
  (四)
  
  そのさまはどうなされた今日けふはまだかほえぬとはれてまさかに、いままでこれ/\でつぎいてられますともひがたければ、せう/\々御不加滅で、しかしもうよろしう御座ござりませうほどに、まあおちやを一つなどゝたみは其場をつくろひぬ。
  學士がくしまゆしはめてれはこまつたもの、全体ぜんたい健康じようぶといふたちでなければ時候じこうかはなどは殊さら注意ちゆいせねばるし、おたみどの不養生ふやうじようをさせたまふな、さてとれも、きう白羽しらはちて遠方ゑんほう左遷させんことまり今日けふ風聴ふいてうながらの御告別いとまごひなりとわけもなくいへばおたみあきれて、御串談ごじようだんをおつしやりますな、いや串談じようだんではなし札幌さつぽろ病院長びよういんちやうにんじられて都合つがふ次第しだい明日あすにも出立しゆつたつせねばならず、もつと突然だしぬけといふではなくうとは大底たいていしれてりしが、なにおどろかせるがるしさに結局つまりいはねばならぬこと今日けふまでもだまつてりしなり、三年ねん五年ねんかへるつもりなれどもそのほどは如何どうわからねばまづ當分たうぶんわかれの覺悟かくご、それにつけてもあんじられるは園様そのさまのこと、なん餘計よけい世話せわながら何故なぜ最初はじめから可愛かわゆくて眞實しんじつところ一日見ぬもになるくらいなれど、さりとて何時いつてもよろこばれるでもなく、結局けつくあれほどやがるものをどくなとのつかぬでもなけれど、如何どうかして天晴あつぱれの淑女にそだてゝたく、自惚うぬぼれのぶんわらたまはんがかく今日けふまでやがられにしなり、まづ學問がくもんといふたところをんな大底たいていあんなもの、理化學りくわがく政法せいほうなどとびいれては、およめさまのくちにいよ/\とほざかるべし、第一だい皮相ひさう學問がくもん枯木かれきつくばなしたもおなじにて眞心まことひとよろばぬもの、よしや深山みやまがくれでも天眞てんしんはないろ都人みやこびとゆかしがらする道理だうりなれば、このうへは優美ゆうびせいをやしなつてとくをみがくやうをしたまへ、このたりとてからさつぱり談合だんかうひざにもるまじきが、これからはいよ/\おたみどの大役たいやくなり、前門ぜんもんとら後門こうもんおほかみみぎにもひだりにもこわらしきやつおほなか、あたら美玉びぎよくにきず■をつけたまふは、そのさまにもひきかせたきことおほくあれどくちよりいはゞまたみゝ兩手りようてなるべし、不思議ふしぎゑんのないひとゑんがあるか馬鹿ばからしきほどいてゆくがやなもちと、わらつてのけながら調子てうしがいつもほどえてはきこえず。
  さん/\”々のおたみ異見いけんすこそめ揚句あげく、そのひとにわかにわかれといふ、おさなきこゝろには失禮ひつれいわがまゝをくみてそれゆゑ遠國ゑんごくへでもかれるやうにかなしく、わびがしたけれど障子一しようじがなく、おたみ最初さいしよんでれしときすこし・・・・ひねくれてより拍子ひようしぬけがして今更いまさらにはしもされず、そのうちにおかへりにならばなんとせん、もうつてはくださらぬかなどゝ敷居しきゐきわにすりつておそのけるもらず、學士がくしはそのときつとつて、今日けふはお名残なごりなるにめてはわらがほでもせてたまはれとさらり障子しようじくれば、おゝ此處こゝにか。(■は「きず」の「まだれ」を「やまいだれ」に置換)
 
  (五)
 
  左様さうないてくれてはこまる、おたみどのもおなじやうになんことぞ、もうはれぬとふでもなきに心細こゝろぼそこといひたまふな、そのさまなにびらるゝことはなし、おまへさまのことよろしくおたみ承知しようちしてればすこしも心配しんぱいことはあらず、たゞこれまでとちがひてだん/\々と大人おとなになり世間せけん交際つきあいらねばならず、第一だいに六づかしきは人の機嫌きげんなり、さりとてへつらひひの草履ざうりとりもあまりほめたはなししではなけれど■そこ工合ぐあいものにて、清浄せいじようなり無垢むくなり潔白けつぱくなりのおまへさまなどが、みぎをむくともひだりくともくむひとはづなれどれではわたられず、れも矢張やはりその中間なかま一枚板まいゝたにて使つかみち不向ふむきなれども流石さすがとしこうといふものかすこしはおまへさまよりひとるし、さりとてるくぎてはこまれど過不及かふそくとりかぢは心一こゝろつよくかんがへて應用おうようなされ、じつところ出立しゆつたつ明後日あさつて支度したく大方おほかたたれば最早もはやにかゝるまじく随分ずいぶん身躰からだをいとひてわづらたまふな、此上このうへにおたのみはばん/\》々見おくりなどしてくださるな、さらでだにをとこ朋友ともだち手前てまへもあるになにかをかしくられてもおたがひつまらず、さりながらお寫眞しやしんあらば一枚まい形見かたみいたゞきたし此次このつぎ出京しゆつけうするころにははや立派ちるぱ奥様おくさまかもれず、それでも又逢またあつてたまはるかとかほをのぞけば、ひざして正体せうたいもなし、れほどわかれるがおいややかとぜられて黙頭うなづく可愛かあいさ、三年目ねんめ今日けふいまさらにむしろいつものらきがしなり。
  やはらかきひとほどはつよく學士がくしひと/\”々のなみだあめみちどめもされず、今宵こよひめてとらへるそでやさしく振切ふりきつて我家わがやかへれば、おたみものられしほどちからおとして、よしや千里萬里ばんりはなれるともこと親子おやこ兄弟けうだいならば何時いつかへつてうといふたのしみもあれど、ほんの親切しんせつといふ一筋すぢいとにかゝつてなれば、とほざかるが最期さいごもうゑんれしもおなじことりつくしまたのみみもなしと、りすてられしやうななげきにおそのいよ/\こゝろぼそく、母親はゝおやわかれにかなしきことつくして、はらわたもみるほどきにきしが今日かふおもひはれともかはりて、親切しんせつもつたいなし、残念ざんねんなどゝいふ感念かんねん右往うわう左往さわうむねなかまわしてなにないやらゆめ心地こゝち、さりとて其夜そのよらるゝところならず、ひてとこへはりしものの寐間着ねまきかへずよこにもならず、さてつく/\”とかんがへればまへ晝間ひるまさま/\”々がかびて、れはらねどむねにやきざまれし學士がくしひし詞一ことばごん半句はんくわすれず、かへぎは此袖このそでをかくらへてつとしかばいまかへりんとわらひながらにおほせられし彼のお聲も最う聞くことは出來できず、明日あすからはくるまのおともまるまじ、おもへば何故なぜひとのあのやうやなりしかとながたもとうちかへしうちかへし途端とたん紅絹もみの八ツくちころ/\とれて燈下とうか耀か〃やく黄金わうごん指輪ゆびわ學士がくしひだり藥指くすりゆびさきのほどまでひかりしものなり。(■は「」の「もんがまえ」を除いたもの)

  

  
 

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  樋口一葉収録作品 (アイウエオ順)
  【ア行】
暁月夜 (1893年) 
あきあはせ (1896年) 
雨の夜 (1895年) 
うつせみ (1895年) 
うもれ木 (1892年) 
うらむらさき (1896年) 
大つごもり (1894年) 
【カ行】
經つくえ (1892年) 
琴の音 (1893年) 
この子 (1896年) 
【サ行】
五月雨 (1892年) 
さをのしづく (1896?年) 
十三夜 (1895年) 
すゞろごと (1896年) 
【タ行】
たけくらべ (1895年) 
たま襷 (1892年) 
月の夜 (1895年) 
【ナ・ハ行】
にごりえ (1895年) 
軒もる月 (1895年) 
花ごもり (1894年) 
反古しらべ (1896年) 
【ヤ・ワ行】
闇櫻 (1892年) 
暗夜 (1894年) 
雪の日 (1893年) 
ゆく雲 (1895年) 
別れ霜 (1892年) 
わかれ道 (1896年) 
われから (1896年)