樋口一葉の世界にようこそ  ここには樋口一葉の文学を知る上で貴重な作品が多数収録されています。 是非ご覧になり貴重な一様文学の神髄をお楽しみ下さい。
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収録作品
【1892年】
うもれ木
たま襷
闇櫻
五月雨
別れ霜
經つくえ
【1893年】
暁月夜
琴の音
雪の日
【1894年】
暗夜
花ごもり
大つごもり
【1895年】
うつせみ
たけくらべ
にごりえ
ゆく雲
雨の夜
月の夜
軒もる月
十三夜
【1896年】
あきあはせ
うらむらさき
この子
すゞろごと
わかれ道
われから
反古しらべ
さをのしづく




 

五月雨 (2)

    茂りあふわか葉にくらき迷ひかなみるべきものを空の月かげ
  意味の存する處何方いづこぞや茫としてくらきわか葉のかげいとゞ迷ひは茂り合ふばかり晴るゝよし無き空の月の心々に判じて見れどいづ眞意しんいと得ぞわき難く喜こぶべきか歎くべきかお八重はお八重優子は優子斯く云はれなば斯くせんの決心互に堅けれど思ひのほかなる返しには何と定めて何とせん未練は流石さすがありそ海のおきて見つ叉取りて見つながめに飽かねど吐息されて八重はマア何と思ふぞと人のことばを待ちて見るあな覺束おぼつかなの三十みそひと文字もじや (さゝや「くちへん」に「■は」の旁)
 
  六
  
  怪しや三郎の便りふつと聞えず成りぬ待つには一日ひとひわびしきを不審いぶかしかりし返事の後今日や來給ふ明日こそはと空だのめなる日を重ねて十日半月さて廿日憂き身につらき卯月うづきも過たり五月雨ごろのしめりがちに軒の忍艸しのぶは我がたぐひの引きては葺かねど池のあやめの根ながき思ひにかき暮らされて袖にも水かさの増さりやすらん此處は別荘の人氣も少くなく氣に入りの八重をおきては別荘守りの夫婦のみなれど最愛の娘病氣との事なり本宅よりの使ひたへま無ければ事によそへて杉原のこと問はするに本宅かしこにも此頃このごろさらに参り給はずといふるにても何とし給ひしにや我心をさなくて卒爾うちつけに文など参らせたるを如何に厭はしと思しながら返しせざらんも情なしとて彼れよりはそれとなく御出のなきか此頃のおうたの心は如何に茂るわか葉の今こそはらけれど時節を待たば空の月のあひみるべきぞとならば嬉しけれど若しやの願ひに左様見さうゆるにやいつらからば一筋ならで頼みのあるだけまどはるゝなりさてもお便りの聞えぬは何故我れ厭はせ給ひなば此處へこそ御入來おいでなく共本宅へまで御疎遠とは不審いぶかしゝそれほどまでに御嫌ひになるほどなら優しげな御詞なぜ仰せおかれけん八重が思ふも恥かしきまでの時は嬉しかりしをこのまゝに見返りもし給はずは今さらおもても向けがたし悲しき事よと娘氣むすめぎに頼みをかけて見つ叉ときつ思案にもつるゝよりいとの八重が歎きは又異なり茂る若葉の妨げと仰せられしは我が事ならずや闇き迷ひを歎じ給へどれ悟りたればこその御取持ちなれ思ひ合ふ中のお兩方ふたかたに我が生涯の望みも頼みも御譲り申して思ひ置くこと些少いさゝかなきを何はゞかりての御遠慮ぞや身を觀ずれば御恨みも未練も何もあらずお二タ方さま首尾とゝのひし曉にはいさぎよくかう/\々して流石さすが貞操みさをたつるとだけ君さまに知られなばおもひでの我れなるに此身ある故に嬢さまの戀叶はずとせば何とせん身退ぞくは知らぬならねど義理ゆゑ斯くと御存しにならば御情ぶかき御心として人はもあれ我よくばと仰せらるゝ物でなしらでも御弱きお生質たちなるに如何いかにつきつめた御覺悟をも遊ばすまじき物ならず御最愛のお一人ひとりとて八重や何分たのむぞと嚴格むづかしい大旦那さまさへ我身わがみ風情ふぜいに仰せらるゝは御大事さのあまりなるべし彼につけ是につけ氣づかはしきは彼の人の事よ有りし日の對面の時此處に居給ふとは思ひがけず郷里のことは我れ聞きたり辛苦しんくさこそなるべけれど奉公大切だいじに勉め給へと仰せられしが耳に残りて忘られぬなりれほどにおやさしからずば是れほどまでにも歎かじと斷ち難ききづなつらしとて人見ぬ暇には部屋のうちに伏し沈づみぬいづれ劣らぬ双美人そうびじんに慕はるゝ身嬉しかるべきを何をいとふてか三郎かき絶て影も見せず疑念は重なる五月雨のくも、薄らぐべき由もなくて、世をうみ梅實うめの落る音もそぞろ淋しき日を幾日、をぐらき窓のあけくれに、をち返りなく山時烏やまほとゝぎすのからくれなゐにはふり出でねど、涙に袖の色かはるまで同じ歎きを別に知る主從の思ひさても果敢はかなし優子はいとゞ世を知らぬ身のお八重が素振そぶり得も察せず氣の毒や我身大事にかけるとて痩せ見ゆるほど心配させし和女そなたの情は忘れぬなりりながら如何ほど盡くしてくるゝ共なるましき願ひぞとはやう/\々に斷念あきらめたりそれにつきて叉別にとゝ様母さまさまへの御願ひあれど御二タ方なり和女そなたなりに歎きをかくるがらきぞとてしみ/\”と物語りつお八重の膝に身をなげ伏して隠くしもやらぬ口説くどきごとにお八重われを忘れていだき合ひ詞もなくよゝと泣きしがお前さまにそのやうなお覺悟させますほどなら此苦勞はいたしませぬ御入來おいでの無きは不審いぶかしけれど無情つれなき御返事といふにもあらぬを早まつてのお考へはお前さまの様にも無し今しばしの御辛抱ぞ其うちには何ともして屹度きつとお喜こばせ申べし八重が一心を憐れとも思しめして其やうな悲しいことお聞かせ遊ばすなとて力を添へぬ優子嬉しく手に手を取りて前の世では何でありしやら兄弟にもなき親切この後とも頼むぞや是よりは別しての事何ごともそなた異見いけんに随がはん最早今もうのやうな事云ふまじければゆるしてよと詫らるゝも勿體なく待てば甘露かんろと申ますぞやと輕るげに云へど義理は重し袖に晴れ間は見えぬ物の限りあればにや今日珍づらしく鳶なきて雨の餘波なごりに軒ばの露に照る日あたらしく玉をみがきて庭の木かげも心地よげなるを籠居たれこめてのみ居給ふは御躰おからだにも毒なる物をとお八重さま/\”にいざなひてほとりちかき野の景色田面たのもいほわびたるも又をかしかるべし御覧ぜずやとわりなくすゝめて柴の戸めずらしく伴ひ出でぬ人の心のうやむやは知らずや茂る木立こだちすゞしく袖に吹く風むねにしゝ植はたす小田の早苗青々として處々に鳴き立つ蛙の聲さま/\”なる彼れも歌かや可笑をかしとてホヽ笑むしうに我れも嬉しく彼方かしこに萱ぶき此の垣根お庭の中に欲しきやうなりの花は何ならんと小走りして進み寄りつ一枝手折りて一輪は主一輪しうは我れかざして見るも機嫌取りなり互の心は得ぞしらず畔道づたひ行返ゆきかへりて遊ぶ共なく暮す日の鳥も寐に歸る夕べの空に行く雲水の僧一人たゝく月下の門は何方いづこ浦山うらやましの身の上やと見送くれば見かへる笠のはづれ兩女ふたりひとしくヲヽとさけ■びぬ (■は「くちへん」に「さけ」の旁)
 
 ルビ
 

  

  
 

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  樋口一葉収録作品 (アイウエオ順)
  【ア行】
暁月夜 (1893年) 
あきあはせ (1896年) 
雨の夜 (1895年) 
うつせみ (1895年) 
うもれ木 (1892年) 
うらむらさき (1896年) 
大つごもり (1894年) 
【カ行】
經つくえ (1892年) 
琴の音 (1893年) 
この子 (1896年) 
【サ行】
五月雨 (1892年) 
さをのしづく (1896?年) 
十三夜 (1895年) 
すゞろごと (1896年) 
【タ行】
たけくらべ (1895年) 
たま襷 (1892年) 
月の夜 (1895年) 
【ナ・ハ行】
にごりえ (1895年) 
軒もる月 (1895年) 
花ごもり (1894年) 
反古しらべ (1896年) 
【ヤ・ワ行】
闇櫻 (1892年) 
暗夜 (1894年) 
雪の日 (1893年) 
ゆく雲 (1895年) 
別れ霜 (1892年) 
わかれ道 (1896年) 
われから (1896年)