樋口一葉の世界にようこそ  ここには樋口一葉の文学を知る上で貴重な作品が多数収録されています。 是非ご覧になり貴重な一様文学の神髄をお楽しみ下さい。
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収録作品
【1892年】
うもれ木
たま襷
闇櫻
五月雨
別れ霜
經つくえ
【1893年】
暁月夜
琴の音
雪の日
【1894年】
暗夜
花ごもり
大つごもり
【1895年】
うつせみ
たけくらべ
にごりえ
ゆく雲
雨の夜
月の夜
軒もる月
十三夜
【1896年】
あきあはせ
うらむらさき
この子
すゞろごと
わかれ道
われから
反古しらべ
さをのしづく




 

総ページ数 1

 うらむらさき
 樋口一葉
 
 
  上 
 
  夕暮ゆふぐれれの店先みせさき郵便ゆうびん脚夫きやくふ投込なげ こんできし女文字をんなもじ書状ふ み一通いつゝう炬燵こたつ洋燈らんぷのかげにんで、くる/\とおびあひだ巻収まきをさむれば起居たちゐこゝろくばられて物案ものあんじなること一通ひととほりならす、おのづといろえて、結構人けつこうじん旦那だんなどの、うぞしたかとおひのかゝるに、いえ、別格かくべつことでも御座ご ざりますまいけれど、仲町なかまちあねなにやらしんぱいことるほどに、此方こ ちからけばいのなれど、やかましやの良人をつとひまといふては毛筋け すぢほどもけさせてれぬ五月蠅う る ささ、夜分や ぶんなりとかへりは此方こ ちからおくらせうほどにお良人う ちねがふて鳥渡とよつとれられまいか、つてる、と文面ふ みります、またまゝむすめ紛紜も めでもおこりましたのか、せまひとなれば何事なにごとくちには得言え いはで、たんとむねいたくするがひと性分しやうぶんこまりもので御座ご ざります、とてわざとの高笑たかわらひをしてかせれば、はてさてどくなとふとまゆせて、おまへにすればたつた一人ひとり同胞きやうだい善悪よしあしともにけてかねばならぬやくわらごとにしてはかれまい、何事なにごと相談さうだんつて様子やう すたらばからう、をんなせまいもの、つとつては一時いつとき十年じふねんのやうにおもはれるであらうを、おまへおこたりをわたしせゐられてうらまれてもとくかぬことよる格別かくべつようし、はやつていてるがよかろう、と可愛か はゆつまあねことなれば、やさしきゆるしのねがはずしてるに、飛立とび たつほどうれしいを此方こな たわざいろにもせす、ではきませうかと不勝ふ しよう/\”々々に箪笥たん すかくれば、不實ふ じつことはずとはやつて先方さ きれほどつてるかれはせぬぞ、とらぬことなれば佛性ほとけしやう旦那だん などのつるに、こゝろおにやおのづとおもぼてりして、むねには動悸どう きなみたかゝり。
   糸織いとおり小袖こ そでかさねて、縮緬ちりめん羽織は おりにお高祖こ そ頭巾ぢ きんせいたかひとなれば夜風よ かぜいと角袖かくそで外套ぐわいとうのうつりく、ではつてますると店口みせぐち駒下駄こま げ たなほさせながら、太吉た きち太吉た きち小僧こ ぞうひとさしゆびさきいて、おふねこぐ真似ま ねせいみせしなをばちよろまかされぬやうにしておれ、わたしかへりがおそいやうならかまはずとをばおろして、行火あんくわあたるならいつでもとこなかれていてはらないぞえ、さんは臺所だいどころのもとをこゝろづけて、旦那だん なのおまくらもとへはれいとほりおわかしにお烟草盆たばこ ぼんわすれぬやうにして不自由ふ じ いうさせますな、るたけはやくはかへらうけれど、と硝子戸がらす どをかくれば、旦那だん などのこゑをかけてくるまふてやらぬか、うであるいてはかれまいにとあまたるき言葉こと ばなん商人あきうど女房にようぼうみせからくるま乗出のり だすは榮耀えいえう沙汰さ た御座ご ざります、其處そ こらのかどからいほどに直切ね ぎつてつてまゐりましよ、これでも勘定かんぢやうつてますに、と可愛か あいらしいこゑにてわらへば、世帯せ たいじみたことをと旦那だん などのがきようえつがほぬやうにしてつまおもて立出たち いでしが大空おほぞら見上み あげてほつといきときくもれるやうのおももちいとゞ雲深くもふかりぬ 何處ど こ姉様あねさまからお手紙て がみやうぞ、眞赤まつ かうそをと我家わが や見返み かへられて、何事なにごとぞんじなしによいおかほをしてひまくださる勿躰もつたいなさ、あのやうなどくい、物疑ものうたがひといふてはつゆほどもおちなさらぬ心のうつくしいひとを、うもうも舌三寸したさんずんだま、しつけてこゝろのまゝの不義ふ ぎ放埒はうらつ、これがまあひと女房にようぼう所業し わざであらうか、なんといふ悪者わるものの、ひとでなしの、はふ道理どう り無茶む ちや苦茶く ちやいぬ畜生ちくしやうのやうなこゝろであらう、此様このやうないたづらの畜生ちくしやうをば、御存ご ぞんじのこととててんにもにもいかのやうに可愛か あいがつて下すつて、わたしことへば自分じ ぶんないものにして言葉こと ばてさせてくださる思召ぼしめし有難ありがたうれしいおそろしい、あまりの勿躰、pつたいなさになみだがこぼれる、あのやうな良人をつ となに不足ふ そくつるぎ刃渡は わたりするやうな危険あぶな計較たくみをするのやら、可愛か あいさうにあのひと仲町なかまちねえさんまでを引合ひき あひにして三方さんはう四方し はううそかためて、此足このあしはまあ何處ど こく、おもへばわたし悪黨あくたうひとでなし、いたづらもの不義ふ ぎものの、まあなんといふ心得違こゝろ えひ、とつじつてあゆみもやらす、横町よこまちかどふたまがりていま我家わが やのきえぬを、かへりてはあつなみだのばら/\とこぼれぬ。
  良人をつ と小松原こ まつばら東二郎とう じ らう西洋せいやう小間物こ ま ものみせばかりに、ありあまる身代しんだいくらなかかして、さりとは當世たうせい算用さんようらぬひとよしをとこに、こひ女房にようぼうのおりつばしこさおくおもて平手ひら てんで、うつくしいまなじり良人をつとはらをもやはらげれば、可愛か あいらしい口元くちもとからお客様きやくさまへの世辭せ じる、としもねつからきなさらぬにお怜悧り こうなおさまとるほどのひとものの、此人このひと此身この み裏道うらみちはたらき、ひとらじとみづかくらませども、やさしき良人をつ とこゝろざし生憎あやにくまつはる心地こゝ ちしておりつ路傍ろ ばうちすくみしまゝ、くまいかくまいか、いつそおもつてくまいか、今日け ふまでのつみ今日け ふまでのつみいまからわたしさへあらめれば、のおひととてさのみ未練み れんおつしやるまじく、おたがひにあさ交際つきあひをして人知ひと しらぬうちにけがれをすゝいで仕舞し まつたなら、いまからのちのあのかたためわたしため生中なまなかこがれて附纏つきまとふたとて、れてはれるなかではなし、可愛か あいひと不義ふ ぎせてすこしもれが世間せ けんれたらなんとせう、わたしかくあのかたはこれからの出世しゆつ せまへ一生いつしやう暗黒くらやみにさせましてそれでわたし満足まんぞくおもはれやうか、おゝいやことおそろしい、なんおもふてわたしひにたか、よしやおふみ千通せんつうやうとゆきさへせねばおたがきずにはるまいもの、もうおもつてかへりませう、かへりませう、かへりませう、かへりませう、えゝもうわたしおもつたとみち引違ひきちがへて駒下駄こま げ たかへせば、生憎あいにく夜風よ かぜさむく、ゆめのやうなるかんがまたもやふつと吹破ふきやぶられて、ええわたしそのやうなこゝろよわことかれてならうか、最初さいしよあのうち嫁入よめいりするときから、とう二郎じ らうどのを良人をつ とさだめてつたのではいものを、かたちつてもこゝろしてるまいとめていたを、今更いまさらつてなん義理ぎ りはり、悪人あくにんでも、いたすらでもかまひはい、おらずばおてなされ、てられゝば結句けつ く本望ほんまう、あのやうな物様ぶつさま良人をつとたてまつて吉岡よしおかさんをそでにするやうなかんがへを、何故な ぜしばらくでもつたのであらう、わたしいのちかぎり、とほしましよれますまい、良人をつとたうと奥様おくさま出来で きなさらうとこの約束やくそくやぶるまいとふていたを、れがのやうにやさしからうと、有難ありがたことふてれやうと、わたし良人をつと吉岡よしおかさんのほかにはいものを、もう何事なにごとおもひますまいおもひますまいとて頭巾づ きんうへからみゝおさへていそあしろつかけいだせば、むね動悸どう きのいつしかえて、こゝろしづかにえていろなきくちびるにはひやゝかなる笑みさへ浮かびぬ。
  (未定稿)
 
 ルビ
 

  

  
 

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  樋口一葉収録作品 (アイウエオ順)
  【ア行】
暁月夜 (1893年) 
あきあはせ (1896年) 
雨の夜 (1895年) 
うつせみ (1895年) 
うもれ木 (1892年) 
うらむらさき (1896年) 
大つごもり (1894年) 
【カ行】
經つくえ (1892年) 
琴の音 (1893年) 
この子 (1896年) 
【サ行】
五月雨 (1892年) 
さをのしづく (1896?年) 
十三夜 (1895年) 
すゞろごと (1896年) 
【タ行】
たけくらべ (1895年) 
たま襷 (1892年) 
月の夜 (1895年) 
【ナ・ハ行】
にごりえ (1895年) 
軒もる月 (1895年) 
花ごもり (1894年) 
反古しらべ (1896年) 
【ヤ・ワ行】
闇櫻 (1892年) 
暗夜 (1894年) 
雪の日 (1893年) 
ゆく雲 (1895年) 
別れ霜 (1892年) 
わかれ道 (1896年) 
われから (1896年)